陸地の道路事情が悪かったその昔、気象の変化が激しく、流れの速い津軽海峡に阻まれたこの地は容易に人を寄せ付けない陸の孤島だったそうだ。 だが、今では函館からフェリーで1時間40分、むつ市から国道279号線沿いに車で50分のアクセス距離だ。ここに人口7000人の「大間町」がある。 周囲を海にかこまれた大間町は漁業の町である。太平洋と日本海の水が入り交じり、岬のすぐ沖あいにある弁天島が更に流れを複雑にする好漁場だ。この流れに揉まれて育った各種の魚は身が引き締まり、味の良さも格別だ。魚だけでなくウニ、アワビ、サザエ等の高級貝類や昆布や岩のりも豊富に捕れ、大間町の産業を支えている。 大間町は昭和58年の松竹映画「魚影の群れ」(緒方拳、夏目雅子主演)の舞台となり、マグロの1本釣りで全国の注目の的となった。最近では、平成12年NHKの朝の連続テレビ小説「私の青空」の舞台にもなり、大間町と大間のマグロは全国的に知られるようになった。
昭和58年大間町の要請を受け、電源開発会社は海沿いの丘に広がる132万uの遊休地に原子力発電所(新型転換炉―60万kW→後に国策により改良型沸騰水型軽水炉―138.3万kWに変更)の建設を決定した。会社は同年7月、建設準備事務所を設け、乗り込み部隊30人を送り込んだ。 僕はその中の一人として総務関係の業務に2年間従事した。事務所建屋、宿舎の建設、備品の調達、町役場との折衝等が僕に課せられた仕事であった。町に溶け込んで町民の皆さんとのコミュニケーションを図るため、町会議員さんや漁師さんとよく飲んだ。大間町の心温まる人情に触れた中身の濃い2年間であった。それだけに今でも大間町に対する思いは強烈なものがある。あれから20年、用地買収が予想外に難航し、発電所建設は足踏み状態が続いている。当時、一緒に苦労を共にした仲間の大半が定年を迎えた。ご協力いただいた地元有力者の多くは故人になった。 今、会社も町も一回り若い世代に引き継がれ、発電所着工のための最後の努力が払われている。 人との繋がりはありがたいものである。既に退職し一私人に過ぎない僕に後輩達は社有車を提供してくれ、建設予定地で進められている準備工事の様子を懇切丁寧に説明してくれた。夜はかって丁々発止でやりあった町の人たちが徳上の海の幸を肴にして酒を振舞ってくれた。 先般の同窓会で親友の日野和久・昌子夫妻が今夏、松江から大間岬までの1800kmのドライブを楽しみ、大いにレフレッシュした話を聞いた。 僕はこの話に刺激され、あえて厳寒の大間町に独りで赴いた次第である。 (旅行日:12月18日〜20日) |