多摩川、最初の一滴を見る
〜「源流・水干(みずひ)探訪の旅」に参加して〜

                           2003.10.27
                               木 下  勲
 山梨県小菅村・多摩川源流研究所主催の水干探訪の旅に参加した。募集を知り、 
福間三郎君を誘ってだ。沢の行き止まりを意味する水干は、笠取山(1953m)
の南直下にある。そこで、東京都民の貴重な水源・多摩川が誕生する、最初の一滴
を見ることができる。ただ、登山口までのアクセスが大変な所だ。この企画は、奥
多摩駅から作場平(さくばだいら)登山口まで、バスで送り迎えしてくれるのであ
りがたい。しかも、ガイドつき。参加費も一泊4食付き・保険代・村営温泉代・バ
ス代で、13、000円とは格安である。
笠取山付近(「源流を歩く」から)


 第一日(10月25日)、立川駅で落ち合い8:45発の快速奥多摩3号に乗車。
天気は曇り台風17号の影響が気がかりだ。終点、奥多摩駅からはツアー客総勢2
7名、小菅村のバスで長作(ながさく)観音堂、雄滝(おだき)、白糸の滝を巡っ
た。ツアー客の中には、2回目、3回目のリピーターがいたのには、驚いた。

左右に流れ落ちる雄滝

一条の糸を思わせる白糸の滝」

 雄滝は、男性のシンボルを彷彿させる大岩の両側から、滝が落ちていた。白糸の 
滝は、36mの高さから名のとおり一条の糸が落ちているようだった。途中、案内
役の源流研究所職員・井村さんから、リョウブ、ホウノキ、シオジなどの樹木の特
色の説明あり。また、地上1.3mのところでの胴回り3m以上が巨木、5m以上
が巨樹ということも知った。長作地区のある一角には、3m近いケヤキやトチがご
ろごろしていた。

ケヤキやトチの老大木

リョウブ、シオジなどに彩られた幽谷

 最後は元首相・竹下登の地方振興事業の1億円で建設されたという村営・小菅の
湯で汗を流した。なかなか大きな立派な温泉施設であった。レストランや休憩室も
ある。バスタオル、タオル、浴衣が付いて、入浴料3時間600円とのこと。
夜は、多摩川源流研究所・所長中村文明(ぶんめい)氏の源流への思いいれと、探
訪のエピソードなどを聞いた。あわせて、自身が撮影された一滴の瞬間、妙見五段
の滝などの写真パネルの紹介もあった。「妙見五段の滝」は雄滝と大菩薩峠の間に
あり、氏が発見、命名されたそうだ。今ごろ発見される滝があるとは、それだけ多
摩川の源流域は秘境なのだ。その秘境を100年前、当時の東京市長・尾崎行雄が、
市民の水を確保する水源林として2万1千ヘクタールを買収した。そこは、山梨県
でありながら東京都の土地なのだ。
終りに、氏の作成になる「多摩川源流絵図」、「同 小菅版」、「小菅の花百選」
を二人とも購入した。絵図には、源流一帯の山、尾根、沢、谷、川、滝、淵が名前
とともに、克明に図示されている、ながめていて楽しくなりまた行きたくなるよう
な代物である。
 二日目(10月26日)、しっかり朝食をとり、身支度を整え外に出た。台風の
逃げ足が早いせいか真っ青な晴天。7:30弁当を受け取り、高鳴る胸を抑えて、
バスで宿を出発。バスは、国道411号(青梅街道)を下り、途中「尾崎行雄水源
踏査記念碑」、オイラン淵を左手にみて、その先を右折、一ノ瀬林道を高度を上げ
て進む。シラカバのある一ノ瀬の集落を過ぎて、作場平登山口に到着。用を済ませ
8:56、「笠取山に登るぞー、エイエイオー」の掛け声とともに出発。シラカバ
からダケカンバに変わってゆく、ダケカンバの剥けた樹皮は、山で火を熾すとき使
われたそうな。これらは、ガイド役の井村さんから。道は、「水源地ふれあいのみ
ち」として、東京都水道局によって整備されている。丸太が横にして組まれた道で、
階段がないのもいい。10:56笠取小屋に到着。赤い実をつけた大きなマユミの
木二本が、出迎えてくれた。

赤い実をつけたマユミの木

笠取小屋の前で

 一休憩して、小屋をあとにすると視界がぐんぐんよくなり、後ろには富士山が見
えてきた。小高い山の上には、「小さな分水嶺」と表示がある。三つの河川の分水
嶺とある。東側に降った雨は関東平野の荒川となり、西側は甲府盆地の富士川、南
側が多摩川となる。ほどなく笠取山が現れる。その下を右手にとり、まずは水干に
向かう。先頭グループが折り返してくる、「一滴」は今日は出てないとのこと。

三つの河川の分水嶺図
 がっかりするも気を取り直して、進む。水干の標識が立ち、上方には祠があって 「水神社」とある。これで何年も前からの念願が叶った。岩盤にある丸い窪みが、 そうだ。手を入れてみると、水気はある。するとピカリと光った。水滴が落ちたの だ。目を凝らして見ると、草の根っこの先に水滴がたまり、また一滴落ちた。つい、 「落ちたぞー」と叫んだ。あとの人のために、草の根っこからだよと付け加えた。 本当の一滴は、岩盤から落ちるものをいうそうだ。それは常時見られない、雨のあ とらしい。こんなこと、来てはじめて知った。草の根っこでも、まあいいか。あの 一滴が、たくさんの沢、谷を経由し一ノ瀬川となり丹波川となって県境を越え東京 都の奥多摩湖に注ぎ、小河内ダムから多摩川となって、138km先の東京湾にた どり着くのは、いつの日だろうか?

最初の一滴が落ちる窪み

水干の前で

 11:24いよいよ笠取山に挑戦だ。下から見上げると、円錐形のカヤトの山だ。
最高斜度40度。福間三郎君と抜きつ抜かれつしながら、ゆっくりと登る。頂上は
狭いが、眺望は超一級、360度に近い。富士山と飛竜山しか名が判らなかったが。
急な下りは、よりゆっくり、ストックがあるから助かる。12:04無事に笠取山
直下に戻り、山を振り仰ぎながら、昼食。12:35いよいよ下山。復路は笠取小
屋から一休坂コースを取り、14:20作場平に到着。帰路の一ノ瀬林道は、山頂
から谷底まで紅葉した山々が夕日を浴び見事な山様をして、我々を見送ってくれた。
「流れを汲み、源を知る」源流探訪の旅は終わった。福間三郎君の万歩計は、
19、000を指していた。一年以内に機会をつくって、また訪ねるつもりだ。

笠取山頂上からの富士山(写真では霞んで見える)
(参考)
 源流探訪の旅について、さらに詳しくは多摩川源流研究所のホームページ
   http://www.tamagawagenryu.net/
 を、ご覧ください。


戻る