平成16年9月20日
野坂美喜子(9R)

 あれは何年前のことだろう。そう、アイルトン・セナの事故死があった前年だからもう11年前のことだ。
 友人達と北海道ツーリング旅行を計画していた我々夫婦はまさか、犬の様子がおかしいからと旅行を抜けることもできず、ロッキー(愛犬名)を入院させ、旅に出かけた。
 旅の第一夜、寝入っていた私は胸にドーンと何かおいかぶさったような衝撃を感じた。あら、もう起床時間で起こされたのかしらと思ったが隣のベッドの夫は何事もなく寝入っている。
 何だったかしらと思いつつ、そのまま寝入り、朝を迎えた。ロッキーに何かあったら、こちらから連絡しますとドクターは言っていたが、異様な胸騒ぎに落ち着かず、ドクターへ電話を入れた。そして、今朝2時40分にロッキーが亡くなったと知る。あー。あの起こされた時、見るとはなしに見た時計。確か2時35分を指していた。あれはロッキーが私のところへ来たんだ。そうだったんだ。
 それからの私、ご想像のほどを!


在りし日のロッキーと私

 しかし、犬が死んだといってグループの雰囲気を暗く、悪くしてはいけない。努めて明るく振る舞った。すぐにも帰りたいのも我慢した。しかし、夜、部屋に帰るともういけない。夫がシャワーを使っている。何か言っている。ナーニ?と私。バス・ルームに近づくとシャワーの音に隠れて、ロッキー、ロッキーと夫がさけんでいる。何も言わない夫。辛いんだなー。私はそーっと離れ、ベッドへ行き、泣きつかれるまで泣いた。
 ロッキーの亡くなった夜はベルセウス大流星群が流れた日だった。きっと大星流に混じって、どこかへ流れて行ってしまったのだ。そして旅行はとどこうりなく終わった。
 我が家のリヴィングのテーブルの上に真っ白いかすみ草に囲まれロッキーのお骨が我々を迎えてくれた。娘のメモと一緒に。「ロッキーのお散歩道を一緒に歩いて、病院から連れて帰って来ました。 りえ子」    
 それから半年後のある夜、息子が私を呼ぶ。行ってみるとマクラレーン・ホンダMP4/6のプラモデルの空き箱の中にまだ目もあかないほどのかわいい子犬がいる。
 私は震えた。あまりの可愛さに。夫いわく「一晩でも泊めたら、責任を持て」と。
 「セナ」と名づけたそのセナは今元気で我々と一緒に楽しく暮らしている。


犬盛りのセナ