演目 渡る世間は金次第        
               作 福田 春岳
 
 八期生のみなさん お元気ですか? 大変ご無沙汰しております。パソコンとプリンターが9年も経過して 反応が遅くなり やむなく買い替えしましたが、 WINDOWS XPから 7に変更した途端に、WORDの操作要領がこんがり、未だに 頭の中で混乱しています。やっと WORDの勉強をも兼ねて、落語にとりかかった次第です。

 売り手のセールストークは決まっています、"タイの洪水で品物がありません"、 "次の新商品は値上がりします" 、"今がお買い得です"。買い手の都合は金次第です。 とにかく、両者共々 金次第。まさに土俵上での にらめっこか がっぷり四つ といった様子です。

 新聞を読みますと 大手の会社でもまたそこに勤務する立派なお方でも なりふり構わず 兎に角 金儲けしようと 間違ったことを平気でやる。 また、最近では 世相を逆手に考える"悪"が横行しています。八期生の諸兄も十分御気を付け下さい。

 今3月11日午後3時30分 先ほど私もテレビの前で黙とうして東日本大震災一周期慰霊式典での 天皇陛下のお言葉を拝聴したばかりですが、とにかく 突然な出来事には "遠くの親戚より近くの他人" お互い様 助け合いの気持ちが以前よりまして 世間に浸み込んで、いわゆる"絆"の強化が話題となっていますが、松江に親戚があっても 突然な出来事には役に立たない。

 "リーン リーン" "リリ リーン"
「はい 福田です」
「福田さんですか?」
「はい そうですが どちら様ですか?」
「あのう 宅配便の者ですが、まことにつかぬ事お尋ねしますがお宅はお隣の判田さんとは、まあ ご近所付き合いあるんですか?」

「はあ? なんですか?」

「いやあ、突然で恐縮ですが、実は 判田様あての着払いの品物を扱っていまして、担当者が何回もお邪魔しているんですが、御留守で 渡せないんですよ、しばらく お留守なんですか?」

「いやあ、詳しくは 知りませんが 夜は遅いようですねえ」
  
「ああそうですか、あのう 大変勝手なんですが、もしお隣との関係で、よければ 福田様に代理で引きとってもらえませんですかねえ? 携帯で担当者と連絡とって、30分以内程度で お伺いできるんですがねえ」

 (面倒くさいなあ でも 判田さんとは 永い付き合いで私もお世話になることだってあるからなあ)

「まあ お互い様なんだけどねえ。さっき、着払いと言ったでしょう? おいくらなんですか?」

「それなんですがねえ、配達料含めて全部で5,500円なんですよ。でもねえ、福田様には 大変ご迷惑なお願いなんで今回配達料無しで実費5、000円で 結構ですよ。領収書は5、500円できっときますから。後のことは おまか せしますよ」

「ああそうですか、仕方ないねえ 今回だけですよ ところでおたくは クロネコさんですか?」

「いやあ、うちはXXX運輸です。品物は缶詰めのようですねえ」

「はい、分りました。夜遅いから早く持ってきてください」

「どうも、有り難うございました、助かりました」

(やれやれ、しかし XXX運輸なんて 聞いたことないねえ 500円引くなんて憎いねえ まあいいや 判田さんから  5、500円貰ってもいいだろう)
   
 翌日、勤め先から帰宅して隣をみたら 明かりがついている。早速、訪ね事情をは話して品物と引き換えに、5,500円貰う。

「どうも すみませんねえ、パパの友達からかしら? 缶詰めセットは重いわねえ、」

 やれやれ。家にかえり、部屋着に着替えて夕刊を開いた途端、

「福田さん 福田さん?」

 なんだ、なんだ、判田さんの奥さんじゃないか 

「どうしました?」

「これ見てよ」

 先ほど渡した宅配便の缶詰めセット。なんと、なんと、厚紙の箱の中身、鉄パイプの切れ端が三本。ガムテープでしっかり固定されていました。

           お後がよろしいようで お粗末様でした

                    (2012・04・01)