演目 今時田舎芝居
"源平盛衰記 想定外の変"
  作 福田 春岳 

松高八期生の皆様 ご無沙汰しております 如何お過ごしですか?
大地震の後 いまだ余震が続くなか くだらん落語なんて創る暇があるなら被害地に出かけてボランテア活動でもやって来いというご批判もおありのこととは存知ますが、ゴールデンウイークの後半からボチボチ世の中も活性化しつつある様子ですので 一席お付き合いを願っておきます。

さて、どうやら 今年の言葉として"想定外"が候補に挙がりそうですねえ。
「よお 阪神タイガースまた負けたねえ」 
「ん? 想定外だよ」

「君、ゴルフはワンランド 除夜の鐘 108 だといっていたが、今日は100切ったねえ」

「ん? 想定外と言いたいんだろう」

てな調子ですねえ。
  
前置きはこのくらいにしておきまして、 "おごる平家は久しからず" 源平盛衰記 これはもう 諸兄におかれましては ご案内の通りですが 昔から日本人は"対決"に関心が強く特に関が原の合戦以降 江戸と上方 今流で言えば 関東と関西 野球では巨人と阪神 新聞は読売と朝日 鰻では背開きと腹開き 百貨店では三越と高島屋 芸能では上方落語漫才と東京落語漫才その他いろいろあるようですねえ。時代考証の専門家に言わせれば、関ケ原で敗れた西側が芝居や歌舞伎を媒体として"親上方反江戸"を民衆に啓蒙したのが発端だそうですが、諸説ある模様です。

21世紀の今時でも 東西対決は別にして 身の回りを探せばいろいろな"対決"があります。なかには田舎芝居と言われそうな 実にあほらしい"対決"もあります。先日の地方選挙は、国会議員選挙と違って、立候補者も多種多様、本当に地域住民の事を真剣に考えているんですかねえ。何だか 地域内の"イベント"みたいな様子でした。
特に私が嫌なのは"無所属"候補者です。政治家は明確な政治理念をもって 選挙民に訴えるべきですが、本籍地も現住所もない立候補者とはなんたることですか!

ある地域の区議会議員選挙での出来事です。
地元の顔役で三期連続議員を務め、当初の約束では 次の予定者に議席を譲る約束だったんですが、よほど 居心地が良いのでしょうか 自分のマンション、アパート、駐車場の揚がりも順調 選挙資金も潤沢で

「おれ、もう一期やるよ いいだろう? 三期やったんだから 次はどこかの議員委員会の委員長ぐらいのポストはくるだろうよ」

議員バッジが欲しいんですよ、冠婚葬祭 正月 盆 等 でかい顔して縄張りをめぐる 「議員さんが挨拶に来た」 これが住民には効くんですよ。                                 
無所属で政治理念自分の政策なんてありゃしないですが自分が経営するマンション、アパート の住人を集めて小型バスを借り切って自腹をきって 観光地廻りなどする 早い話が体のいい選挙活動の展開です。これを知った もともとの次回立候補予定者の怒りは当然です。

「なんだい? もう一期やるって?冗談じゃないよ 想定外だ 許せないすぐ 寄り合いを開こう」

地元の長老 顔役が集まり 喧喧轟轟 血圧が上がる話し合いが開かれました。ボルテージが上がるばかりで 話はまとまらない。

「俺たちが 票集めをして 三期やらせたんじゃないか あいつは地元のためには 役に立っていないよ 地元の約束を無視するなんて許せねえこの地場から出て行け」

「なに言ってんだあ 継続は力だ信だ おれは一生懸命やって やっと議会でも 存在が認められるようになったんだあ。選挙費用だってあんたがたに ビタ一文もお世話になったわけでもないよ 全部自腹だ文句あるか おれはもう一期やる」

「ああそうか、よし わかったよ。 予定通り俺は立候補する ご出席の方だって、わかってもらえるはずだ」

会合は物別れ ドロ試合の始まり "対決"の始まりです
この方も地元の顔役で地区内に幼稚園を二箇所経営、自腹を切って保護者をターゲットに絞り選挙活動開始です。

もともと議席の禅譲の約束なんて有力者の口約束だけで別に念書や覚書が取りわされている訳でもなく、どっかの大物政治家の政治献金みたいに結局ウヤムヤです。それに三期前の長老はほとんど居なくなり 困ったのは新しい地元の有力者達 口には出さずとも 二派に割れます。もっと困ったのは 現議員の経営するマンション、アパートに住んでいて新たな立候補者の経営する幼稚園に子供を通わせているママサン達です

「あのさあ 困ったわねえ 区議会議員の選挙どうするの?」

「私も困っているのよ だって一票しかないんでしょ? 二票あればさあいいんだけどさあ  パパに相談したら 区議会議員選挙なんて 投票しなくていいよ どうせ顔役の顔見世興行だって言うのよ」

「だけどさあ この前 貸切バスで動物園に行った時、園長先生から付き添い保護者一人ずつお昼弁当手渡しでしょう?」

「私だって 先月とその前はお家賃が遅れたんだけど 大家さんから何も言われなかったしさあ」

選挙事務所も表通りを挟んで対峙 選挙参謀役も大変 投票日が近くなるとお互いに相手陣営の切り崩しが激しさを増し 獲得予定票の見込み違いが表面化しますが、自分の陣営に不都合な情報は参謀止まりで、候補者の耳には入りません。正に太平洋戦争末期の"大本営"みたいです。
地域町内を二分して"対決"です。今更後に退けない 正に"対決"です。                          
「幼稚園の先生はベース アップに不満がたまっているようで 一応 5人の先生に投票を依頼しました。内3人が既婚者ですので 旦那さんにも宜しくと頼みました」

「アパートの管理人とは昔なじみですので 三階の都内から流れてきた四所帯を紹介してもらいました。一階の住人は長らく住んでいるのでいやいや もう大変ですいろいろ義理が有り切り崩しは難しそうです。今度二階をアッタックします。
今晩彼と食事しますから、先生はそれ知らなかった事にしておいてください」

いやいや もう大変です。

そして、とうとう白黒つける 選挙投票日はやってきました。二人の立候補者にとっては想定外の結果となりました。票田に亀裂が走り想定外の大津波に票が流され正に大惨事です。想定外の 候補者が漁夫の利を得て当選対決した二人は枕を並べて討ち死にです。

"ああ おごる候補者は久しからず" 田舎芝居の幕は閉じます。
                     (2011・07・01)