演目  十人十色

            作 福田 春岳 
ようこそのお運びで 厚くお礼申しあげます。

さて まず噺の前に 今回の東北関東大震災で被害を受けられた八期生 諸兄 および ご親族、関係者の皆様方に 高い床から恐縮ですが、心より お見舞い申しあげます。本日も足の便わるいところ、ご来場賜り恐縮です。

みなさま 如何お過ごしですか、いきなり硬い話で恐縮ですがとにかく、長生きしてたっぷり年金を頂いて熟年を謳歌して、くださいよ。働き盛りの頃は他人のために給料から年金分引かれて、自分が貰う年齢になると、なんだか身体が調子悪くなり、最悪貰えなくなる。あの世では年金いただけないでしょうよ。
悔しいじゃございませんか?

まあ、やっと暖かくなってまいりました。 楽しく過ごしましょう。春になれば、自然界も賑わってまいります。ところでみなさまお気付きでしょうが日本人の好みの梅、桜、そして牡丹等われわれが眼にするものでも最低十種類以上あります。バラエテーに富んでます。

私の近所の東南アジアから国費留学している大学院生は、日本ほど自然の変化に富んでいる国はないと絶賛しています。例えば大根島の牡丹ですが、島の固有特産種だけでも、赤系が花王、島輝、島娘、島錦。桃系が八束獅子、島根聖代。紫系が島大臣、八雲、白系、白神、新八束。とりあえずでこんなところ。まだまだあります。まあそれぞれの品種持ち味があってこそ、面白いものです。まさに、"十種十色"とでもいいましょうか。

さて、本席の噺にもどりますが、よくこのお、人から物事を尋ねられると「知らない」と返事せずに、その場で自分で勝手に解釈して知った被りする方がいらっしゃいます。何故かと調べてみますと、自分が知らないということを人に知られたら恥ずかしいとか、立場上何か返事しなければならないとか、いろいろその瞬間に事情がおありのようですねえ。お客さまのなかでも、お子さまやお孫さまから尋ねられて、返答に窮することがおありになったでしょう。

その昔江戸時代では、いわゆる下職の者は確かに知識教養には欠けていたようです。職人は腕に磨きをかければよい。「あの野郎は読み書きが出来るんだってさあ、ふていヤツだ。よほど腕が悪いだろうよ」なんて仲間内の評判になりがちで、その反面、長屋のご隠居とか大家さんが知識階級でいろいろと相談相手になって面倒をみる。これで大抵のことは納まっていたようです。

21世紀の今でも、これに似たようなケースはあるようです。私の近所のあるアパートには言葉が悪いんですが、まだ発展途上国から国費留学とか関係深い大手企業の奨学金扱いで近くの大学で大学院生扱いで勉強している方が数名いらっしゃいます。さて噺はこれからです。

たまたまなにかの懇親会の席上、"十人十色"と云う言葉を聞いたが意味が判らない。

「オオヤサン ノ オクサン "ジュウニントイロ"トハ ドンナイミデスカ? オシエテ クダサイ」

「はあ? そうねえ?"ジュウニントイロ"ねえ?あのさあ、人間10人揃うと顔色や肌の色が10人違うっていうことじゃないの?」

さあ、これが大変。途中は割愛させてもらいますが、町内の民生委員の耳に入り、人種差別用語と誤解されたら大変だあ、と同じ国の先輩留学生に協力を依頼。運よくその先輩は日本語がよくできて快くヘルプを引きうけてくれました。

「きみねえ、日本語は中国の漢字と関係深くて難しいだよ。"ジュウニントイロ"という言葉は意外と難しいだよね。差別用語じゃないよ。人それぞれ、パーソナリテイやキャラクターが違って、人間としての持ち味がそれぞれ違うという意味だよ。気にしないで、勉強しろよ」

「ワカリマシタ シカシ オオヤサン ノ オクサン ハ ニホンジンデスガ ナゼ ニホンゴガワカラナイデスカ?」

「ん〜 そこなんだよなあ。いいにくいだよなあ。日本人でも日本語のいい回しで判らないことがあるよ」

「ソレデハ ワタクシ モウイチド オクサン ニタズネテミマス」

「止めてくれ。私の説明で止めにしてくれ。君が奥さんにまた尋ねたら、こんどは"蜂の巣を突っつく"ことになる」

「ハチノス ハ エイヨウガアッテ オイシイデスヨ」

「ああ、もうこれで終わりにしてくれ。なにがなんだかわからなくなった」

(ほんね、福田の落語は、つまーへんけんね。あげな、だらずの噺、ようつくうもんだねえ。よもよも、しれたもんだわ)

なに? 何ですか?そこのお客さん、お客さん、貴方ですよ。

新作落語のネタ集めは大変なんですよ。いつも面白い噺は、無理ですよ。まあ 10件のうち3件面白ければ上出来ですよ。例えばプロ野球の打者でも好、不調の波があって年間通して規定打数に達して打率三割維持すれば一流じゃないですか。私の落語も面白さ三割を維持したいですねえ。松高八期の諸兄は知性と教養の持ち主ばかりだから、老化防止を兼ねて何とか大脳に快いソフトな刺激を与えようかと、いろいろネタを絞っているんですよ。私の落語、今のところ残念ながらーーーーーーー"十件十色"ですかねえ?

           おそまつさま おあとがよろしいようで
                     (2011・04・01)