演目  お寺のポイントサービス                    
       
                   作 福田 春岳

みなさん 如何お過ごしですか? しょっぱなから 嫌な話ですがサブプライムローン問題は世界中を巻き込んだ厄介な事になりましたねえ。人間の欲と業がある限りこの手の問題は今後も無くなることはないでしょうねえ。
"備えあれば憂いなし"、"あれこれ欲しいがまず貯蓄"とか簡単にいえば"節約"、"我慢"、"身分相応"こういった言い回しは決して死語にしてはいけません。

大体、アメリカ人は欲しいものがあれば、借金してでも、すぐ手にいれる、 金が足りなくなれば ローンで遣り繰りすればいい、これが経済的通念ですからねえ。日本も困ります。私も困ります。 

さて、カネが欲しい、増やしたい、何とかならないものか? 皆、考えます。私の住む町内の小売店さんでも、今はやりのポイントサービスをやり始めました。大変なことです。現実はキビシイですねえ。

あるお寺の跡取りの副住職さん、このままでは どうしょうもない。本山からの支給額はふえるわけはない、檀家からの志納金やお布施は相場が下がる一方 困りました。

「住職、本堂の修復どうしますか? このまま、ほっておくわけにはいかないでしょう?」

「だってねえ、お前、寺にはカネがないんだよ。私だって年だし、倅のお前に気持ちよく、相続したいんだがねえ。本当に困ったねえ。本山も観光収入が減って大変だってさあ。以前はねえ、現世は辛いが来世では幸せをきっと手に入れるという阿弥陀如来の教えもあって、節約、我慢をしてでも寺にはそれ相当の志納をきちんとしたものだけど、今は自分が食べて行くことしか考えないからねえ」

「代々続いている神社仏閣には、銀行が無担保でも長期資金を出すらしいから、思い切って借金でもしましょうか」

「なんだい? アメリカのサブプライムローンみたいなことやはだねえ、寺が潰れたら、ご先祖に申し訳無いし、地獄行きに間違いないよ」

「借金の返済には、一つ面白い事、考えているんだよ」

「なんだい? 寺の敷地が広いから、マンションか駐車場でも考えているのかい?」

「それも、当初考えたんだけど、もっと、檀家や一般のひとに受け入れ易いもんなんだよ。本堂修復に加えて、御本尊の阿弥陀さんの下に"胎内くぐり"をもうけて、地獄極楽廻りで小銭を稼ごうっていうわけさ」

「なんだい? そりゃ、長野の善光寺の"胎内くぐり"のまねじゃないか!銀行が貸すかねえ?」

「大丈夫だよ。銀行は借り手がなくて困っているよ。だからアメリカのとんでもないものに首つっこむんだよ。それに今流行の"ポイントサービス"をつけるのさ」

「なんだか、大変な事になりそうだなあ、お寺のポイントサービスなんて、初耳だなあ」

「ここからが、大事な話だから、よくよく聞いてよ。地獄極楽廻りのお客さんには紙で作った帽子を被ってもらう。もちろん、帽子代は廻り代に込みだよ。帽子の横にポイントサービスとして、阿弥陀さんのゴムスタンプを押す。
一回の廻りでスタンプ一回ってわけさ。十回廻ったら帽子の横に阿弥陀さんのスタンプが十個。カッコ良いし人気が出るよ。どう?消費需要増出でグッドアイデアでしょ?」

「お寺の坊主でも、最近の若いもんは、いろいろ考えるんだねえ。その先どうするのさあ」

「十回廻ったお客さんには、ポイントサービスで一回タダにするっていうわけさ」

「馬鹿だなあ、お前はまだ若い、知恵が足りない。年寄りの寿命が伸びて、寺も暇でしょうがない。十回廻ったお客さんには満願成就、そのまま地獄にいってもらいなさい。それがポイントサービス、すなわち、需要捻出だ。判らなければ、もう一度本山へ行って修行して来い」

              お粗末さま お後がよろしいようで
                      (2010・4・01)