演目  30年後の故郷
                           
                   作 福田 春岳 

皆様  明けましておめでとうございます     


毎度の御来場ありがとうございます。                        
高いところから恐縮ですが相変わらずの馬鹿馬鹿しいお話で御機嫌うかがいさせていただきます。今から相当前、そうですねえ数十年前になりますかねえ、小松左京の"日本沈没"の映画を見ましたが驚きましたよ、 何しろ地震と火山活動で日本列島が沈没して無くなるんですからねえ。見た直後の後味は悪かったですよ。でも よくよく考えてみると、よしましょうねえ こんな話。

お客様、今日の噺も後味悪いですよ、途中つまらないと思ったらどうぞ寝ていて結構ですよ 但し携帯電話はOFFにしておいてくださいよ、それに木戸銭は返しませんから あしからず。木戸銭何てねえ 席亭と協会で割り振るだけで私の懐にはほんの雀の涙程度しか入ってきませんからねえ。

お客様は御自身の故郷がこの先どうなっていくかなんて 考えたことありますか? ありませんでしょうが 老後の自分 家族兄弟のことで精一杯でしょうねえ ましてや20年、30年先の故郷なんて 今の自分の年齢からして、考えたって仕方のないことと普通思いますよねえ。そこなんですよ 小松左京じゃないですが、誰もが考えたがらない事を ちょいと考えてみるこれ 意外と面白いですよ。

さて、皆様の故郷 島根県松江市 皆様が日本人の男子平均寿命の限界年齢に達している頃 どうなっていると推測しますか?推測するのが嫌でしょうから私が独断と偏見でその先30年先頃まで推測させていただきます。

まずは 失礼ながら皆様がボケル前に道州制移行により中国州、州都は広島となるでしょう。旧県庁所在地に支庁が置かれるでしょうが、これが本席落語のキーポイントなんですよ。

島根県も鳥取県も無くなるわけですから、旧島根県県庁所在地と粋がっても通用しません。だけど、松江人として なんとなく面白くない。松江の沈没なんて許せないです。中国州の日本海側の代表的都市として、松江、出雲、米子、 安来、 境の広域大合併。当初推定人口約65万人大都市の誕生です。西に宍道湖、東に中海。同じく玉造温泉に皆生温泉、更に出雲空港に米子空港、出雲大社、松江城に伯耆大山、中国自動車道との接続は米子自動車道に尾道松江自動車道、広島、岡山と松江のあいだは三時間半で結ばれます。ああ 面白くなってまいりました。私のテンションもあがってきました。地勢学的にみても松江が中心、農業は出雲、産業は米子、漁業は境。バラエテーに富んでいます。

しかし、新しい市名はどうなるでしょうねえ?松江市ではまとまらないでしょう。日本海市、神在市、二湖市、山陰市、西日本市、関西市、新日本市、中国市、島鳥市、他にないでしょうか?なんだか、私のテンションが下がってまいりました。中国州日本海市松江区。 ああそうそう、大橋川で区切られているから判りやすいや、中国州日本海市松江北区、松江南区なあんちゃって。小松左京の"日本沈没"より面白いなあ。

ああ 私の持ち時間が過ぎました 残念ですねえ。このさき皆様よく考えてみて下さい。脳の活性化のためどうですか。
                      
                    おそまつさまでした


「有難うございました 有難うございました お足元にお気お付けて帰り下さいませ」

テンテン トコトン テントコ テントコ ドド ドド ドーン

「お客さん 幕ですよ 目覚ましてくださいな」

「ああ お終りかい ああ寝てたよ ああ気持ちいいなあ」

「お前よく寝てたなあ」

「だって 島根県が無くなるって言うから、頭にきて寝たんだよ」

「お客さん、島根県ってどこにあるんですか?」

「鳥取県の左だよ」

「鳥取県はどこですか?」

「そりゃあ 島根県の右側だよ」 

「なんだか禅問答しているみたいですねえ、でも それ最近どっかで 聴いたセリフですねえ」 

「御免ね こいつが変な受け答えするもんだから、気分悪くしないでね」

「大丈夫です、さっきの落語で気分悪くなっていますから」

「おい、なにやっているんだい、はやくしろ、ちょっと一杯気分治しにでかけようじゃないか」

「でもさあ、都会であくせく生活していると、それで精一杯でいつのまにか、年を重ねて、故郷の事なんか、わからなくなるねえ。みんなそうだろうけどねえ。話は変わるけどねえ、淡谷のりこの歌うブルースに"窓を開ければ港が見える、メリケン波止場に灯がともる"って歌詞があったねえ」

「古いねえ 今更なんだよ」

「あれだよ センチメンタルなメロデイだったが時代の夜明けを待ち望んでいる庶民的なせつない気持ちがなきにしもあらずだ」

「"メールをひらけば、松江がみえる、千鳥お城に灯がともる"わかるかなあこの気持ち、せつないブルースどころかせつない三流噺になっちゃって、落語が沈没しちゃったよ」

皆さん、故郷が沈没しないように、故郷の発展を祈りましょう。年初早々、湿っぽい話となりましたが、皆様の今年こそはのご発展をお祈り申しあげます。

                    (平成22年元旦)