演目  厄介な趣味 
                           
                    作 福田 春岳 

 毎度 馬鹿馬鹿しい話で恐縮です。

 私の落語が面白いのか面白くないのか、何処が面白いのか面白くないのか、今後も続けて欲しいのか、いい加減で止めてて欲しいのか、さっぱり反応が判りかりません、私はただ、ひたすら、自分のひらめいた事をまとめて、折角、幹事さんから、掲載のチャンスを頂いたこともあり、皆様の精神衛生を浄化するという壮大なる(?)目標も頭の片隅に置いて作成にはげんでおります。今しばらく、お付き合いのほど、重ねて 宜しく お願い申しあげます。
 
 さて、皆様もいろいろ趣味がお有りのことと存知ますが、他人の趣味を認めることは、理屈でわかっていても、感情では理解できない事がよくあります

 "なに?、そんなことが好きなの? くだらないねえ、私には全然関係ないねえ"これが一般的な反応でしょうねえ。
 
 先日、撮影目的で東北の或る山の中の過疎の町へ行きました。特例による町村合併で面積は東京23区がスッポリ入る大きさ、人口はわずか、9,800人 役場は人口が減って大変な騒ぎ、県の教育委員会が人口減を理由に県立普通高校の廃校を発表したところ、いやはや大変 私ども一行が民宿に着くやいなや、存続の署名を頼まれる始末です。なにしろ、東も西も2,000メートル級の山に囲まれ町内巡回バスは平日、朝と夕方で二便、但し、水曜日は整形、木曜日は内科のお医者さんが開業するので、お年寄り対策でもう一便追加、後はおして知るべしの様子です。

 今の時期の役場の皆さんの大事な仕事の一つに"熊対策"があります。撮影の為、ちょっと山の中に入ると到る処に"熊出没注意"の立て札が道端か斜面 に立てられいるか、大きなブナの幹にロープでつるしてあります。なにしろ、膨大なる面積ですので、その量たるや 半端なものでありません。さらに、役場のミニカーで職員二人一組で現場に行くので真にご苦労さんと言いたいです。
 ま、ここまでは、面白くもなんとも無い話でこんな落語やめてしまえ、とお思いでしょうが、"ジャストちょと待てモーメント" 今、しばらくお付き合い願います。

 最近、役場に町民、観光客、より"立て札がとれていて見苦しい"、とか"ブナの木にロープがぶらさがっていてこれまた見苦しい"とかやたら、電話があり、なにしろ数が多いので、役場の物置にある使い古しの ベニヤ板などで再生して手当てしておりましたが、それにしても変だなあと、ミニカーで巡回していたところ、たまたま、誰か二人組が立て札を持ち去る現場に偶然出くわしました。

"すみません、役場の者ですが、立て板持って行かないでください"
 
 "ん ん ああ どうも、なに ちょっと、一枚ねえ、すいません"

 "そんなもの、持って行ってどうするンですか? やめてくださいよ"

 "はい、すみません、これ、一枚、金払いますから、頂けませんか?"

 "駄目ですよ、ベニヤ板の手当てができないンですよ、なにしろ、この町の面積は東京より広くて、あちこちで熊が出るので大変なんで、その立て札は貴重なんですよ"
 
 "ああそうですか、どうも失礼しました"

 二人組みは近くの道端に置いていた役場のミニカーよりうんと高級な乗用車で山を下って行きました。

 "畜生、まずかったなあ、あれは かっこいい立て札でおれの居酒屋に飾るのに 一番よかったのになあ"

 ぶつぶつ言いながら帰りました。

 一方、役場の職員は未だに納得出来ず、隣町の役場に情報提供をかねて訊いてみると、なんと、マニアがいて 各地の立て札を失敬して、自分のマンション、アパート、仕事場に季節限定で飾っていることがわかりました。

 しかも、怖そうな熊の絵が描いてあったり、"熊出没注意、山に入る時は笛を吹きましょう、熊に出くわした時には目を見ないこと、熊を見たらけっして走らないこと"などの注意書きがあったり、かつ、XX町役場、XX町猟友会、等作成者名がはっきり記入されている立て札はマニアのあいだて、取引もされていることが判明しました。 まことに厄介な趣味です。とても理解できるものではありません。くだんの、二人組もそのマニアで自分の経営する居酒屋に立て札をポスターなみに飾って悦にいっているのです。

 今日とて 夕方営業開始、午前中立て札を失敬出来ず 気分悪く早目に店を閉めようと思っていたら 付近を縄張りにしているやくざの親分が子分を連れてやってきました。(ああ、ああ、今日はツイテないなあ)

 "おやじ、いつものボトルだしてくれ"(ふん、あの安物のボトルか)
"つまみはよぉ、裂きイカかシシャモをちょいとあぶってくれ"(うるさいなあ)

 "おやじ、おめえの後ろに飾ってある そのポスターか なにか面白そうだなあ ちょいと外して見せてくれ"(まさか、くれとはいわないだろうなあ)
 "おお、面白いなあ、なにが面白いかって、怖そうな熊だなあ、しかも、役場の名前まで書いてあるじゃないかぁ、なになに、熊に出会ったら、目をみるなか、これは緊張感あるなあ、俺だったら、熊公を睨めかえしてやるよ"(ばか、おまえなんか 熊に咬まれて 死んでしまえ)

 と、隣にいた子分が "親分、裏に何か書いてありますよ"

 親分がふとひっくり返して裏をみる、な な 薄汚いポスターがそのまま

 『暴力行為や嫌がらせでお困りの方は気楽にご相談ください』

 XX町役場、XX県警XX警察署、XX町暴力等被害対策協議会
 
 親分の顔が一瞬にこわばる。

 "チェ、このポスター ちっとも 面白くない"

       おあとがよろしいようで  お粗末さまでした。

                     (2009・07・01)