演目 田舎者の海外旅行 

 作 福田 春岳

 ようこそのお運びで厚く御礼申し上げます。お暑いい中、松高寄席にお越しくださいまして楽屋一同もう気も狂わんばかりの喜びです。でも若しかすると、若しかすると、ですよ お客様の中には、家に居られない事情で、止む終えず、寄席に来たんじゃなかろうかと心配している師匠連中もおります。最近次々と嫌な殺人事件なんか起きていますからねえ。

 でも、寄席にいらして 笑ってストレス解消していただく なんて 結構なこってすよ。寄席にいらっしゃる方々は家庭円満間違いありません。”笑う門には福来る" 昔の人は良いこと云いますよね。皆さんは落語って言うと 八っつぁん、熊さん、横丁のご隠居さん、甚平さん、もう一人加えて、与太郎さん、なんてすぐ思い込んでいらっしゃるでしょうが、海外でも 面白い話がありますよ。何か面白いネタが有ればすぐ肉付けして 小噺をこしらえる これが また腕の見せ処でして、

 これは 実際あった話で 東北のある県の農家の海外旅行、AGENTSは JA TRAVEL カッコいいですね、 農協なんて云うとダサイ JAですからねえ。

 まあ、秋の取り入れも終わり、農閑期、海外ツアーを募集したところ、いやまあ、集まるは集まるは、たちまち完売御礼。

 さて 米国で一通りの観光旅行が終わり 最後のナイアガラの滝の見物となりました。予算の都合上カナダ滝の見物となりました。
添乗員も最後だから気合が入ります。
 "みなさん アメリカからカナダへ渡る橋の上にカナダの国境警備員がいて、なんの目的でカナダに来るのですか?と質問しますから 其の時私が合図の眼くばせしますからパスポートを見せて サイト シーイング(SIGHT SEEING 観光旅行)と一言 言って下さい。いいですか、心配ありません、問題ありませんから"
 この話を聞いたある親爺さん、日頃 俺は百姓でも英語が出来ると自負しておりました。
独り娘が女子大生、たまたま、サンキュウ(有難う) グッドモーニング(お早う)、ノープロブレム(心配無し)、を教えてもらい 覚えていました。
うん、やっぱり、俺の娘はエライ。心配ありません、問題ありません、はノープロブレムだ! 俺が英語が出来るところを皆に見せてやろう おどろくぞ!

 ナイアガラの滝のカナダ滝に行かれた方はご存知でしょうが、国境が狭い橋 左側に日本で言うとマンシヨン建築現場の作業員詰め所みたいな国境検問所があります。
米国カナダとも車は左ハンドルですから これは解らないでもありません。
   
 さて、一行を乗せた小型マイクロバスが問題の国境付近にさしかかりました。添乗員が最後の声を振り絞って "さあ、皆さん なにも心配ありませんから、大きな声でサイトシーイングと言ってくださいよ"
独りずつ事も無く終わり くだんの親爺さんの順番となりました。
警備員がパスポートを見ながら"なんの目的でカナダに入国しますか?"
添乗員が親爺さんに眼くばせ 親爺さん待ってましたとばかり 大きな声で
"ノープロブレム" 警備員も添乗員も "?" 再度目配せ 再度大きな声で"ノープロブレム" 

 添乗員が汗をかきかき 個別説明してやっと、国境にかかっている踏切の遮断機みたいなゲートが上に揚がりました。
"なにやってんだ!何も心配ないから 一言サイトシーイングと言えと教えたんじゃないか!通関が遅れたんじゃないか!" 
"おら はあ、しんぺい ねえから ノープロブレムといったべや、"
!"#$%&'()=〜| !"#$%&'()=〜|!"#$%&'()=〜|

 カナダを出国してアメリカに再入国するとき くだんの親爺さんマイクロバスの窓越に先ほどの警備員と目が合い"サンキュウ"
と大声、 警備員も声を合わせて

 "NO PROBLEM"
                 おあと がよろしいようで
(2008.10.02)